古鏡と『鹿男あをによし』
古鏡 その神秘の力
川崎市市民ミュージアム(編集)
川崎市市民ミュージアム主催、企画展「古鏡―その神秘の力―」の図録。前漢末から三国の中国鏡、直弧紋鏡や?龍鏡などの初期大型倭鏡、神奈川県・東京都出土の弥生・古墳時代遺跡出土鏡など、約190面の写真を掲載している。企画展に出陳される優品揃いの中国鏡のうち、注目すべきは初公開となる建初八年(83)の紀年をもつ画像鏡だ。これは画像鏡の紀年鏡としては初見となり、従来想定されていた画像鏡の出現年代を四半世紀溯らせる資料である。
また、同じく初公開となる横浜市大場第二地区遺跡群No.2地区出土の弥生時代小形倣製鏡は、伴出した土器から弥生時代中期中頃のものと判断され、東日本においては最古クラス。本書の論考編には上記初公開の鏡2点の資料紹介のほか、第一線の鏡研究者による論文を掲載している。
『鹿男あをによし』(しかおとこあをによし)は、万城目学(まきめまなぶ)氏の小説で、テレビドラマや、漫画作品にもなっている。
この小説の中で、古鏡が極めて重要なアイテムとして登場する。
この小説を読んで、古鏡の種類とか歴史上、祭事史上での位置づけが判り興味が沸いた。
奈良の女子高に赴任した教師が奈良公園の鹿に命を受け、日本の滅亡を防ぐために奮闘するファンタジー小説。タイトルの「あをによし(青丹よし)」とは枕詞で奈良の前につく修辞で、古文ではおなじみだ。2007年4月10日に幻冬舎より刊行され、2007年夏には第137回直木賞候補にもなった。さらに2008年1月には「2008年本屋大賞」の10作品にノミネートされた。発行部数は当初7万部と発表されていたが、ドラマ化の影響もあり、2009年3月現在では20万部を突破した。2010年4月6日には幻冬舎文庫が刊行されている。
9月、「おれ」はひょんなことから大学の教授に勧められ、2学期の間限定で奈良の女子高の教師になる。しかし、生徒にからかわれたり、無視されたりとコミュニケーションが取れず、途方に暮れる。そうして迎えた10月。奈良公園の大仏殿裏にいた「おれ」の前に突如鹿が現れ、人間の言葉で話しかけてきた。
実はその鹿は1800年前から人間を守りつづけてきた存在で、60年に1度行われる「鎮めの儀式」で用いる目を運ぶ役(「運び番」)に「おれ」を任命する。
目は人間界で「サンカク」と呼ばれ、狐の「使い番」を任せられた女性から渡されるという。
ところが「おれ」は「使い番」に気づかず、挙句に違うものを渡された。鹿は「目を鼠に奪われた」と言い、そして鹿は「目を取り戻さないと日本が滅びる」と警告する。ちょうど同じころ、東では火山性微動が続き、富士山が噴火する兆候にあった。
後は読んでのお楽しみ。ドラマは登場人物の性別を変え、恋愛部分にも三角を取り入れて、ある意味、小説よりも面白くなっていてお勧めだ。
閑話休題、ネタバレで申し訳ないけれど、「サンカク」とは三角縁神獣鏡の事。古鏡の知識があれば、いっそうこの小説を楽しめる。